第254号 その2 | 低気温のエクスタシー・ハードバージョン

第254号 その2

再び決死のイラク入りをした元人質の豪人女性から豪首相への公開書簡



4月の米軍によるファルージャ攻撃の最中に、人道救援活動のためバグダッドからファルージャに入り、レジスタンスによる拘束を経験し、その後母国オーストラリアに帰国していた女性が、再びイラク入りを果たした。

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[TUP-Bulletin] TUP速報413号 ドナ、再びバグダッドへ

04年11月29日

制服を着ていれば、公認のテロリスト

ドナ・マルハーンが再度バグダッドから

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4月の米軍によるファルージャ包囲網攻撃の最中に、人道救援活動のためバグダッドからファルージャに入り、その帰路地元ムジャヒディンによる拘束を経験し、その後母国オーストラリアに帰国していたドナ・マルハーンが、24日に再び無事にバグダッド入りを果たしました。日本人の香田証生さんも殺害され、30年以上もイラクに住みイラク国籍を持つ英国人マーガレット・ハッサンでさえ殺害される状況下、今誰であろうとイラク入りを打診すれば、、現地を知るものからは「今は、やめておけ」と言われます。
そんな中、バグダッド入りしたマルハーンからの第一声です。

   (翻訳:福永克紀/TUP)

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コークスクリュー、レッドゾーン、そして公認のテロリスト2004年11月24日ドナ・マルハーン

 
 この乗り心地は、「バグダッド・コークスクリュー」 [訳注:コークスクリュー
商標名。レールの途中にらせん状の回転を組み込んだジェット・コースター]とでも名づけようか。ルナパーク [訳注:豪州シドニーにある遊園地] では、群集は皆こんな感じのジェットコースターに乗るのに、少なくとも10ドルも支払っているのだろう。
 
 猛スピードの小さな飛行機で、らせん状の急降下、ほとんど垂直に、茶色い砂塵の海を通り抜け、戦争が行われている地域へまっしぐらにと。

なんという乗り心地! ようこそバグダッドへ!

そういうわけで、むかつく胃をおさえて、とても寒い占領された首都に到着した。

身なりの立派なビジネスマンや重武装の傭兵たちと、螺旋飛行を共にすることはシュールな経験だった。この時期イラクに来るごく少数の人たちは一儲けするために来ているわけではない。ほんとに少数だ。

背広組から出るいちばんありふれた質問に、「いえ、グリーンゾーンに滞在する気はないんです」と丁寧に答えると、眉をひそめる者が何人かいた。

困惑の目には、「いったい何をしにここに来たんだ?」という声には出さない疑問が見てとれた。

バグダッド空港メーンターミナルの外の歩道で、窓ガラスを鏡にして、私は変装をほどこした。黒いロングドレスかコートようのものを着て、それとそろいの、栗色のトリミング(とてもスタイリッシュ)のついた黒いスカーフを頭にかぶり、黒い手首カバーに、赤の手袋と濃いサングラス。そう、これで出来上がり。変装が完成すると、少なからぬ地元の人が、よしよしとうなづいてくれた。

たったひとつ馬脚をあらわすものは、ドレスからはみ出している茶色の埃っぽいがっしりしたハイキングブーツだ。私は飛行機に乗るときはいつもこのハイキングブーツを履いて乗る、というのもこのブーツはとても重いので、手荷物に入れると重たくなりすぎてしまうからだ。しかし、スタイリッシュなイラク女性が普通に身にするような流行の黒い靴がぴったりな今日の格好には、このブーツは全くそぐわない。まあ、仕方ない、私の足が注目されないことを願うだけね。

シャトルバスに飛び乗って、厳重に要塞化された空港地域とバグダッド市内をつなぐ軍隊の検問所へ向かった。空港を出るときに見える看板には不吉な言葉が。

「あなたは、レッドゾーンに入ります。武器を装てんし、即応できるように」

神よ、そんなにひどい軍事攻勢を受けなければならないレッドゾーンとは、いったいどんなところなのでしょう?

これが何だというのだろう。ただバグダッドの空港以外の場所というだけではないか。

町であり、近隣であり、通りであり、学校である。普通の人たちが生活している場所である。見たこともない外国人に自分の国を占領されて、当然のことだが、面白くないと思っている人たちが住んでいる場所である。

イラク中で、米軍施設が存在しないところは、すべてレッドゾーンだ。「自由」をもたらしに来た占領者にとっては、この国全体が脅威に思えるのだ。

空港から約15キロ離れた軍隊の検問所についたとき、私の変装でちょっとした混乱があった。制服を着た数人のイラク人に、聞きたいことがあって近づいていくと、彼らが息を殺してささやいているのが聞こえてきた--「彼女は、イラク人かい?」
 
やった! 私の変装が物を言っているので、気をよくした。しかし、それもつかの間、もう一人の返答に私は落ち込んだ。「いや、アメリカ人だろう」

この時点で、私が口を挟まざるを得なくなった。「私は、アメリカ人ではありません」と笑みを浮かべて言ったものの、そう言う私の言葉つきが、イラク人でないことをばらしてしまった。

「自分は、アメリカ人だ」と、やたらと幅の広い胸に馬鹿でかいマシンガンをぶら下げ、いかにも「自分が担当者だ」ということが明らかにわかる物腰で、背の高い鋭い顔つきのアメリカ傭兵が言った。彼の服のロゴから、グローバルという名の、イラクで私兵を供給する国際警備会社の人間だと分かる。

「私は、決してアメリカ人などではありません」と、物見高い群衆に向かって繰り返すと、彼は私の意図を汲み取ったようだった。

私の荷物を載せたリフトがまだ回ってこないので、空港にやってくる人たちを警備員たちが身体捜索をしているテントの中でうろうろしていた。凍えつく風をよける場所がほしかった。

アジア系の傭兵に、友人に電話したいので携帯電話を貸してもらえないかと尋ねてみた。彼は電話を手渡しながら、条件をつけた--「手短にしてくれ、金持ちじゃないんでね」 一日1000ドルもの賃金をもらっているのにと、眉をひそめた顔を見られないように、私は彼に背を向けた。

私がテントの隅に座る場所を見つけると、「自分はアメリカ人」の傭兵が、私の選んだ区画について警告してくれた。

「ここは、検問所の汚い側と呼ばれている」と説明してくれた。

「ここは、いつ何時、武器や爆弾が出てきてもおかしくないところで……

「かたや、あっち側では、合法的に持てるようになっている」と、彼は付け加えた。

私は言わずにはいられなかった。

「そうね、分かったわ、彼らは合法的なテロリストで、他の者は非合法なテロリストってことね?」

「そう、そのとおりなんだ」と言う。「制服を着ていれば、公認のテロリストな
んだ」

彼のぶっちゃけた状況把握に、少し驚くとともに感心した。

テント内を見渡してみると、わたしに椅子をゆずり、寒さから逃れる場所を提供しようとする陽気なイラク人労働者の一団がいた。

私は、非合法なテロリストになるかもしれない人たちと一緒に汚い側にいようと決めた。

さっき3時間も空港が閉鎖されて、私たちが乗った飛行機が長時間空中旋回しなければならなかったのはなぜなのか、このミスター・アメリカに聞いてみた。

「知るか」と答えた。「ここじゃ、毎日、問題が起こるのさ」

「ここ」、検問所で車での自爆攻撃が起きる、まさにその場所。

「ここ」、次の3時間を私が過ごす場所。

さっきの一団と会話を交わし、彼らが歓声を上げ、私のアラビア語を笑い…

空港に向かおうとしている女性が、私をイラク人警備員と勘違いし、検査のため私にバッグを差し出したとき、私はうきうきしてしまった。しかし、その連れたちが外国人がめかしこんでいるだけだと指摘してしまったので、がっくりとした。でも、全体的には彼らは私の努力に感心していた。

イラク人の職員が、頼みもしないのに、私が友達に電話をかけるのに彼らの電話を使えと言ってくれた(傭兵の10分の1の値段で)ことが心に残った。なかには、寒風の中待ち続ける私を心配し、自分の家においでと言ってくれた人たちもいたことも。

でも、結局それは必要なく、イラクでもっとも危険なルートとされる「空港道路」またの名を「死の街道」に向かった出発した。

とくに何事もなくホテルに到着し、今は、ついにバグダッドに戻ったことが少し信じられないような気持ちでヒーターの前に座っている。いや、ちょっと待って。
いま明かりが消えたところだ。発電機がウーンとうなりだし、攻撃型ヘリコプ
ターが低空に舞い降りてくる。間違いなく、バグダッドに戻ってきたのだ。

あなたの巡礼者

ドナより

追伸:空港からの、何事もなく安全なドライブを助けてくれた皆さんに感謝。

追追伸:「戦争とは、金持ちのテロリズムだ」


原文:
http://groups.yahoo.com/group/ThePilgrim/message/119


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[TUP-Bulletin] TUP速報414号 

ドナから豪首相への手紙 

04年11月28日

バグダッド入りをはたしたドナがハワード首相につきつける命がけの糾弾

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 4月、米軍包囲下のファルージャに、人道救援活動のために入り、その帰路、地元のレジスタンスによる拘束を経験したオーストラリア人女性ドナ・マルハーンが、24日に再びバグダッド入りし、そこから送っている現地報告を継続してお送りします。
この第2信は、マーガレット・ハッサンでさえ殺害される現地から、対米追従路線を改めないジョン・ハワード首相に送った命懸けの糾弾の書簡です。

(翻訳:萩谷 良/TUP)

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ドナ・マルハーン

オーストラリア首相ジョン・ハワード氏への手紙

2004年11月25日

親愛なる友人の皆さん

きょう首相に送るつもりの手紙です。皆さんにもCCでお見せしたいと思います。オーストラリアを発った日に200人くらいでやった平和集会で、読み上げました。みんなに、私の首相に対する要請の証人になってもらいたかったのです。このメールを読む皆さんも証人になってください。

親愛なるハワード首相殿(CC ダウナー外相殿)

私がバグダッド帰還の途につきましたことをお知らせしたく思います。イラクのたくさんの家庭の苦難を軽減するための人道的援助の仕事を続け、あの国の人々に状況を報告し、平和のメッセージを送るためです。

過去20カ月で、イラクに行くのは、これで3度目になります。

最初に行ったときは、有志連合諸国が侵略する前でした。私は、驚くほど暖かく迎えられ、絶大なもてなしと友情を受けるばかりでした。

あの頃は、イラクの人々はオーストラリアを愛し、賛えていたのです。

2度目にイラクに行ったのは、占領されてすでに半年ほどになったイラクでした。それでもなお人々は大いに私を尊重して、受け入れてくれたものでした。人々は、私のようなオーストラリア人からの援助に感謝の気持をもっていましたが、あなたが与える「援助」に対しては同じ気持をもたなかったわけです。

滞在の終わり頃には、イラクの人たちは私に「なぜオーストラリアが我々に危害を加えようとするのか」とか「あなたの国の政府はアメリカにくっついていくのか」などと尋ねるようになっていました。

あの人たちとの友好的な関係が変質するのを、私は感じました。暖かさが消えてしまったのです。

今回のイラク訪問では、私は通りを歩くことができないでしょう。あけっぴろげの歓迎も受けないでしょう。その代わりに不安と疑いに迎えられるでしょう。

ハワード首相、私はオーストラリア人であるために、大変な命の危険にさらされているのです。

私たちにとってまったく脅威ではない国を侵略するという、あなたの決定が、一国民全体の怒りを招き、その人たちを大変な混乱に突き落としてしまったことが、おわかりですか。

ここでひとつ、あなたにお願いをしなければなりません。私は2004年12月の間じゅうイラクにいますが、謹んでお願いいたします、どうぞ、その間、あなたの口を閉じ、この侵略について熱意をこめて語ったり、占領を賛えたりなさらないでください。

あなたやダウナー氏の発言がイラクはじめアラブ全体のマスコミで大々的に流されていることに、あなたはお気づきでないかもしれません。

わたしはイラクで無事でいるつもりですが、反乱グループのどれかに捕虜として捕まえられても、そのとき私の命を救ってくれるものがあるとすれば、それはあなたとあなたの政策に反対してきた私のこれまでの経歴でしょう。それが私の唯一の希望です。

もしそのようなことになったならば、うわべだけ私の身を気遣うような言葉は一切慎んでください。イラク国内のどんな集団とも連絡を取ろうなどとはしないでください。

私を「救出」しようなどとはなさらないでください。

それよりも、前回のときのあなたの、私を愚かで無責任だという、誤った情報にもとづく侮辱的発言を変えずに繰り返していただきたいと思います。たぶん、あなたが私を批判するのを聞けば、抵抗勢力の人たちは、私が何か正しいことをしているのだと思ってくれることでしょう。

これは本気でお願いしているのですから、どうか、これは守ってください。私のこのお願いの件は、バグダッドのオーストラリア大使館のほか、私の家族や友人の広範囲におよぶネットワークにも伝えます。

私はこのような状況のなかに、何の準備もなしに入っていくのではありません。自分の身の安全には徹底的に注意を払っており、必要な場合には オーストラリアその他の国のイスラム教徒たちが私のために擁護の動きをしてくださる手はずは整えてあります。

私の引き受けようとしている危険は重大なものです。そのことはよくわかっていますが、私はそれが必要だと考えます。

イラクという素晴らしい国全体に言うに尽くせぬ苦難を引き起こした占領にあなたが言語道断にも参加して、私たちの国にひどい恥をかかせたと私が言うとき、私は何百万ものオーストラリア人の叫びを繰り返しているのです。

私はこの恥を打ち消す何かをしなければなりません。

あなたの政策とその帰結を拒否すると私が言うとき、私は何百万ものオーストラリア人の声を代弁しているのです。

私はイラクに赴き、このことを伝えなければなりません。

あなたの軍事的関与に匹敵する友情と共感の人道的関与を必要とするということを、私は心から語っているのです。

この思いを届けるために、私は行かなければなりません。

ハワード首相、あなたのおかげで私は、この大切な任務をもってイラクに戻るよりほかなくなったのです。

イラクの状況をよりよく知るため、私が現地から差し上げる生情報は強い関心を持ってお読みになると信じています。(あなたの政府の役人はバグダッドでは自分達の家からほとんど出られないのですから、私は喜んで詳しい情報を無料で差し上げるつもりです)

イラクの人々のこの占領とオーストラリアの関与についての思いを、あなたが虚心に受け止めてくださることを願っています。

あなたに、この人たちの叫びが聞こえることを祈ります。

草々

ドナ・マルハーン

追伸 どうか、いつもいつもサダム・フセインのことばかり言うのはやめてください。サダムなど問題でないことは、私たちみなが知っていることです。イラク人は、あなたが彼のことを言うたびに笑っています。どうか、誠実になり、イラク人の知性を侮辱するようなまねはお慎みください。


追追伸 「幸いなるかな、平和をつくる者ら、その人らは神の子と呼ばれん」マタイ福音書5-9

この手紙をお読みいただき、ありがとうございます。上書きをつけて議員諸先生にお送りいただいてかまいません。

あなたの巡礼者
ドナ

追伸 どうぞご心配なく、私は元気です。じきにまたお便りを送ります。

追追伸 Eメールを下さった方たちにお礼申し上げます。全部にご返辞を差し上げる時間はないと思いますが、ちゃんと読ませていただきますし、メールをいただけてありがたいと思っています。

追追追伸 ラーイドが、オーストラリアのみんなによろしくと言っています

追追追追伸 「急進的な変革は、政府間の交渉ではなく、民衆の強制によってのみ行われる」(アルンダティ・ロイ)

(全訳 萩谷 良/TUP)

原文
http://groups.yahoo.com/group/ThePilgrim/message/120


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